相続放棄を全員でするとどうなる?その後の管理義務や手続きを解説
長谷川 毅
はせがわ たけし
- AFP(日本FP協会認定)
- 証券外務員二種
- 住宅ローンアドバイザー
【専門分野・得意分野】生命保険・ライフプランニング・相続対策
【自己紹介】保険業界22年。豊富な経験を活かし、最適なライフプランニングから円滑な相続対策まで幅広く対応いたします。
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相続放棄を全員でするとどうなる?その後の管理義務や手続きを解説
被相続人に多額の借金がある場合など、相続人全員で相続放棄を検討するケースがあります。
全員放棄を選択した場合、手続きはどのように進み、財産や管理義務はどうなるのでしょうか。
相続権は次の順位の親族へ移るため、関係者への配慮も必要です。
この記事では、相続人全員で相続放棄を行う際の具体的な手続きや、2023年の民法改正で変更された不動産の管理義務、後順位の相続人への影響について詳しく解説します。
【この記事でわかること】
・ 相続人全員が放棄した場合の財産・借金の最終的な行方
・ 相続権が後順位の親族に移るため、トラブル防止の連絡は必須
・ 【2023年民法改正】放棄後も不動産などの管理義務が残るケース
・ 全員が相続放棄するための具体的な手続きと全体の流れ
相続人全員での相続放棄は可能?まず知っておきたい基本
被相続人の遺産に借金などの負債が多い場合、相続人全員が相続放棄を選択することは可能です。
ただし、「全員でまとめて」一つの手続きで完了するわけではありません。
相続放棄は、あくまで個々の相続人が自身の意思で行うものです。
そのため、手続きの基本原則と、全員放棄を円滑に進めるためのポイントを理解しておくことが重要になります。
相続放棄の手続きについては「借金は引き継がなくていい?相続放棄の手続き期限3ヶ月のルールと注意点」で詳しく紹介しています。
相続放棄は相続人ひとりひとりが個別に行う手続き
相続放棄は、各相続人が個人の意思に基づいて、家庭裁判所に申し立てる手続きです。
法律上、「相続人一同」として一度に申述することはできません。
たとえ家族全員の意思が固まっていても、相続人一人ひとりが個別に申述書を作成し、署名・捺印して提出する必要があります。
これは、相続権という重要な権利を放棄する意思を、裁判所が個別に確認する必要があるためです。
したがって、相続人全員が手続きを完了して初めて、全員が放棄した状態となります。
必要書類をまとめて提出すれば手間や費用を軽減できる
相続放棄の手続きは個々に行う必要がありますが、必要書類の一部は共通して利用できます。
例えば、被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(除籍謄本)や住民票の除票などは、一部で足ります。
兄弟姉妹など、同じ順位の相続人が同時に手続きを進める場合、これらの書類を1セット取得し、それぞれの申述書に添付してまとめて提出することが可能です。
これにより、書類の取得にかかる費用や手間を大幅に軽減でき、効率的に手続きを進められます。
相続手続きの必要書類については「相続手続きの全スケジュール|期限切れで損をしないための必要書類と提出先一覧」で詳しく紹介しています。
【結論】相続人全員が放棄すると財産や借金はどうなるか
相続人全員が相続放棄を完了すると、その遺産を相続する権利を持つ人が誰もいなくなります。
その結果、プラスの財産もマイナスの借金もすべて承継されなくなり、最終的には国のものとなります。
ただし、全員放棄が完了したからといって、自動的に財産が国に移るわけではない点に注意が必要です。
プラスの財産もマイナスの借金も一切引き継ぐ必要がなくなる
相続放棄の最も大きな効果は、相続権を完全に失うことです。
これにより、被相続人が遺した預貯金や不動産といったプラスの遺産を一切受け取れなくなる代わりに、借金やローン、未払いの税金といったマイナスの債務もすべて引き継ぐ必要がなくなります。
相続人は、初めから相続人でなかったものとみなされるため、債権者から返済を求められても、相続放棄した事実を証明すれば支払う義務はありません。
これは、全員が放棄した場合でも同様です。
誰も相続しなくなった財産は最終的に国のもの(国庫に帰属)になる
相続人全員が相続放棄をすると、その遺産を相続する人が法的に存在しない状態になります。
この場合、誰も引き継がなかった不動産(土地や家)、預貯金などの財産は、最終的に国庫に帰属、つまり国のものとなります。
ただし、このプロセスは自動的には進みません。
債権者などの利害関係者や検察官が、家庭裁判所に対して「相続財産清算人」の選任を申し立て、その清算人が財産を現金化し、債権者への支払などを終えた後に、残った財産が国庫に納められるという流れをたどります。
相続人がいない場合の財産については「相続人がいない場合の財産はどうなる?国庫帰属への流れと生前対策」で詳しく紹介しています。
自動で国のものになるのではなく「相続財産清算人」の選任申立てが必要
相続人が誰もいなくなった財産は、自動的に国の所有物になるわけではありません。
財産を国庫に帰属させるためには、利害関係者(債権者など)または検察官が家庭裁判所に申し立て、相続財産を管理・清算する「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」を選任してもらう手続きが必要です。
この清算人が財産を調査・換金し、債権者への返済などを行ったうえで、残余財産があれば国庫に納めます。
誰も申立てを行わなければ、不動産などは所有者不明のまま放置されることになります。
相続人全員で放棄する前に!必ず確認すべき3つの注意点
相続人全員での相続放棄を検討する際には、手続きを進める前に必ず確認しておくべき注意点があります。
特に、相続権が次の順位の親族へ移ることによるトラブルの可能性や、法改正によって変更された不動産の管理義務については、正しく理解しておくことが重要です。
これらの点を軽視すると、予期せぬ責任を負うことになりかねません。
注意点1:相続権が後順位の親族へ移るためトラブル防止の連絡は必須
相続放棄をすると、その人は初めから法定相続人ではなかったとみなされます。
例えば、被相続人の子が全員放棄した場合、相続権は直系尊属である親に移ります。
親がすでに亡くなっていれば、被相続人の兄弟姉妹が新たな相続人となります。
もし借金があることを伝えずに放棄すると、後順位の家族や親族に突然、債権者からの督促が届き、深刻なトラブルに発展しかねません。
全員放棄を決めた際は、次に相続人となる親族へ必ず連絡し、状況を説明することが不可欠です。
注意点2:【2023年民法改正】放棄後も「現に占有」する空き家などは管理義務が残る
2023年4月1日に施行された改正民法第940条により、相続放棄後の管理義務の範囲が明確化されました。
改正後は、相続放棄の時点でその財産を「現に占有」している場合に限り、管理義務が残ります。
例えば、故人と同居していた相続人がその家を離れずにいる場合などが該当します。
一方で、遠方に住んでいてその不動産(家や土地)の管理に一切関わっていなかった相続人は、放棄後に管理義務を負う可能性は低くなりました。
現に占有している場合は、相続財産清算人に財産を引き渡すまで、保存義務を負い続けます。
配偶者居住権については「居住権とは?相続で家に住み続ける権利と配偶者居住権を解説」で詳しく紹介しています。
注意点3:「相続財産清算人」の選任には高額な費用がかかる場合がある
不動産などの財産が残った状態で全員が相続放棄をした場合、その財産を清算するために相続財産清算人の選任が必要になることがあります。
この申立てを行う際には、清算人の報酬や経費として、数十万円から100万円以上の「予納金」を家庭裁判所に納める必要があります。
この費用は原則として申立人が負担します。
債権者などが申し立てれば問題ありませんが、誰も申し立てない場合、管理義務を負う相続人が放置による損害賠償リスクを避けるために、自ら費用を負担して申し立てなければならないケースもあります。
相続放棄を全員で行うときの具体的な手続きと流れ
相続放棄を全員で行う場合でも、手続きの基本的な流れは一人で行う場合と変わりません。
各相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
戸籍謄本などの必要書類を効率よく収集し、定められた手順に沿って手続きを進めることが重要です。
相続手続きについては「初めての相続手続き完全ガイド|流れ・期限・やるべきことを専門家が解説」で詳しく紹介しています。

ステップ1:必要書類(戸籍謄本など)を収集する
相続放棄の手続きには、まず必要書類を揃えることから始めます。
一般的に、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本(除籍謄本)と住民票の除票(または戸籍の附票)、そして申述人(放棄する相続人)の戸籍謄本が必要です。
誰が相続人であるかによって、追加で被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本などが必要になる場合もあります。
同じ順位の相続人が同時に手続きを行う場合は、被相続人に関する書類は1通で済むため、分担して収集すると効率的です。
ステップ2:相続放棄申述書を作成し家庭裁判所へ提出する
必要書類が揃ったら、相続放棄申述書を作成します。
申述書は裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。
申述書には、申述人の情報、被相続人との関係、相続開始を知った日、放棄の理由などを記入します。
この手続きは相続人一人ひとりが個別に行う必要があるため、各自が申述書を作成し、署名押印します。
作成した申述書と収集した必要書類一式を、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
提出方法は郵送または持参です。
ステップ3:家庭裁判所からの照会書に回答し返送する
申述書を提出してから1〜2週間ほどで、家庭裁判所から申述人の住所宛に「照会書」または「回答書」という書類が郵送されます。
これは、相続放棄が本人の真意によるものか、相続財産を隠したり使ったりしていないかなどを確認するための質問状です。
質問事項は、「相続放棄をする意思は変わりありませんか」「財産を処分したことはありませんか」といった内容です。
事実に基づいて正直に回答を記入し、署名押印の上、指定された期限内に返送します。
この手続きも各相続人が個別に対応する必要があります。
ステップ4:相続放棄申述受理通知書を受け取る
照会書を返送し、家庭裁判所が相続放棄の申述を正式に認めた場合、「相続放棄申述受理通知書」が郵送されてきます。
この通知書を受け取った時点で、相続放棄の手続きは法的に完了となります。
この書類は、相続放棄が認められたことを証明する重要な公文書です。
後日、被相続人の債権者から支払いを求められた際には、この通知書のコピーを提示することで、自身に返済義務がないことを証明できます。
失くさないように大切に保管しましょう。
全員での相続放棄に迷うなら「限定承認」という選択肢も
被相続人の借金がどれくらいあるか不明確な場合、全員放棄をためらうこともあるかもしれません。
そのような状況では、「限定承認」という別の手続きも選択肢になります。
これは相続放棄とは異なり、一定の条件のもとで財産を相続する方法ですが、限定承認を行うには、相続人全員が共同で申し立てる必要があります(一部の人が相続放棄をした場合は、放棄者を除く残りの相続人全員)。手続きが非常に複雑なため、実際には利用件数が少ない点に注意が必要です。
限定承認とはプラスの財産の範囲内で借金を返済する手続き
限定承認は、被相続人から受け継いだプラスの遺産の価値を上限として、マイナスの負債を弁済するという相続方法です。この手続きを選択すると、もし借金を返済した後に財産が残れば、その残った分を相続できます。
逆に、遺産の価値以上に負債があったとしても、相続財産を超える部分については返済する義務を負いません。
つまり、相続人自身の財産で故人の借金を支払うリスクを回避できる制度です。
相続・老後のお金の不安は専門家への相談で整理できる
相続放棄をすべきか、あるいは限定承認を検討すべきか、相続人だけで判断するのは難しい場合があります。
特に、財産の全体像が不明確な場合や、家族間で意見がまとまらない状況では、どのように進めるべきか悩むことも少なくありません。
「マネナビ」では、相続に関するお金の不安について、専門家が状況を整理し、考えるべきことの優先順位を明確にするお手伝いをしています。
初回相談は無料であり、いきなり結論を出すのではなく、一人ひとりの状況に合わせた選択肢を一緒に考えます。
相続のお金に関する不安は「相続のお金の不安を整理するマネナビ」で詳しく紹介しています。
相続放棄を全員で行う場合のよくある質問
相続人全員での相続放棄を検討する際には、手続きやその後の影響について、さまざまな疑問が生じます。ここでは、全員放棄に関して特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
後順位の親族への連絡方法や、残された家財道具の扱いなど、具体的なケースについて解説します。
- Q相続人全員で相続放棄をした後、次順位の親族にはどう連絡すべきですか?
- A
相続放棄が家庭裁判所に受理された事実と、それによって相続権がご自身たちに移ったことを、電話や手紙などで速やかに伝える必要があります。
特に負債がある場合は、次の法定相続人である家族(親や兄弟など)が相続放棄を検討するための期間(3ヶ月)を確保できるよう、誠実に対応することが重要です。
後のトラブルを避けるため、内容証明郵便などの書面で正式に通知しておくことが望ましいでしょう。
- Q相続放棄後、故人が住んでいた家に残る家財道具はどう処分すればよいですか?
- A
相続放棄をした人は、故人の家財道具を勝手に処分することはできません。
家財道具も遺産の一部であり、これを売却したり廃棄したりすると、相続を承認した(法定単純承認)とみなされ、相続放棄が無効になる恐れがあります。最終的には、選任された相続財産清算人が法的な手続きに則って処分することになります。
それまでは、管理義務の範囲で適切に保存する必要がある点に注意してください。
相続不動産売却については「相続不動産売却ガイド|手続き・税金・費用・注意点を徹底解説」で詳しく紹介しています。
- Q兄弟のうち一人だけが相続放棄に反対しています。他の人だけで手続きできますか?
- A
はい、手続きできます。
相続放棄は各相続人が個人の意思で決定するものであり、他の兄弟など、共同相続人の同意は必要ありません。
そのため、一部の相続人だけが手続きを進めることは可能です。ただし、一部の兄弟だけが相続放棄をした場合、放棄しなかった残りの相続人が、被相続人のすべての財産と負債を引き継ぐことになります。
この点を事前に説明し、理解を得ておくことが望ましいでしょう。
まとめ
相続人全員での相続放棄は、被相続人の負債を引き継がないために有効な手段ですが、手続きは各相続人が個別に行う必要があります。
全員が放棄すると、相続権は後順位の親族へ移るため、トラブルを避けるためには事前の連絡が不可欠です。
また、2023年の民法改正により、相続放棄後の管理義務の範囲が変更された点も理解しておくべきです。
判断に迷う場合は、専門家に相談して状況を整理し、適切な手続きを選択することが重要です。
自分の場合はどう考える?
不安を整理したい方へ
記事を読んで「自分のケースではどうだろう?」と感じたら、状況を整理するところから始められます。